木工の歴史
世界の木工の歴史は古く、初めて人間が木を道具に使ったのは原始時代までさかのぼると言われています。道具を使う動物として、その他の生き物とは一線を画してきた人間の歴史そのものといっても過言ではありません。古代エジプトでは狩猟などに使用する道具の枠を飛び越え、机やスツールが作られていた記録が残っているようです。
木工は日本だけでなく世界中で最も歴史のある技術であると言えます。
日本でも縄文自体からすでに漆塗りなどの造形が施された道具が、福井県の鳥浜貝塚から見つかっています、
飛鳥時代には仏教の伝来と共に木工・建築技術が飛躍的に発展し、その後長い時間をかけて物流や商業の仕組みが構築されるにつれて、木工品は一部の貴族や宗教のためのものではなく、庶民の生活道具にも広がっていくことになります。
江戸時代には社会の安定、生活の豊かさを背景に技術の向上がさらに進み、現在まで続く伝統工芸としての木工技術が多く生まれることとなったようです。
日本の木工技術
日本の伝統的な木工品はその工法の違いから呼び名がそれぞれ違います。
代表的なものでは指物 (さしもの) 、刳物 (くりもの) 、挽物 (ひきもの) 、曲物(まげもの)といったものがあります。
それぞれ紹介していきます。
指物(さしもの)
箱ものや、机、いすなどによく使われます、木と木のつなぎ目の部分に釘などを使わず木材に正確な凸凹を施し組み合わせた木工品の総称です。2つの木材を組み合わせる技術の事を「接手」といい、その中でも特に建築に用いられる長さ方向に組み合わせる技術は「継手」として呼び方が違います。接手の中でも一番代表的な「ほぞ継ぎ」は身の回りの家具を見渡せば1つはあるのではないでしょうか。その他にも装飾性の高い「蟻接ぎ」や「天秤差し接ぎ」など多くの組み方が存在し、職人や地域の個性によって様々です。
刳物(くりもの)
その名の通り、木を「のみ」など刃物を使って刳り抜いて形作る木工技法でつくられた木工品です。最も原始的な木工技法といえます。ボウルや臼などがイメージしやすいでしょうか。
敢えて刳り抜いた跡を粗く残したり、美しく滑らかに仕上げたり、さらには彫りで装飾を施したりと、刳物も作者の個性を存分に楽しむ事ができます。
挽物(ひきもの)
ろくろで回転させた木材に鉋(かんな)を当てて形成していきます。椀や鉢、など円形の器物を作る時に主に用います。木取りと呼ばれる木材の見極めを行ったあと、内を掘り、その後ろくろにはめて回転させながらろくろ鉋を用いて形作っていきます。比較的大量生産に向いていますが、正確に形作っていくには職人の熟練した技術が必要です。
曲物(まげもの)
曲物を代表するのが皆様おなじみ(?)のわっぱ。薄く削った木材をお湯につけて柔らかくする湯曲げという方法や、引き曲げという薄く切れ目をいれて曲げる手法で円や楕円の形を作り、接ぎ目を樺や桜の皮で閉じた後、底を取り付けて器の形を作ります。
最近では弁当箱にわっぱを使う人もチラホラみかけますね。
世界の中でも極めて高い日本の木工技術
何百年も当時の趣を残したまま今なお残る神社や仏閣に使われている木工技術は日本のレベルの高さを物語っています。何千年というレベルで私たち日本人と深くかかわってきた木の道具たちもまた同様です。
現在ではコンピューター制御による工作機械の発達もあり高い精度で、かつ大量生産ができるようになりました。
しかし、木工の難しいところは原料である木材それぞれに個性があり、例えばブラスチック製品などのように全てが自動化できるというわけではありません。さらには機械ではまだ加工ができない領域も多く存在するというところにあります。
木の性質をよく見極めどのように加工するのが最適か。そこにはこれだけIT技術が進化した現代でも人の目利きと熟練した木工職人の技術が必要です。
日本の木工は身近な芸術品
品質の高い日本の木材と高い技術を持つ日本の木工職人。
そんな日本の木工品に触れることは、めまぐるしく変化する現代において、思考や心のスペースを生み、創造力を与えてくれる私たちの生活に最も取り入れやすい「身近な芸術品」と言えるのではないでしょうか。