森の中から見た空

日本林業の誇り 吉野林業

 

吉野林業のすばらしさ

古くより日本の林業の模範とされてきた吉野林業。奈良県吉野川上流域の川上村・黒滝村・東吉野村を中心に、独自の育成方法と林業経営で質の高い木材を生産し世界的な知名度を誇ります。労を惜しまない密植多間伐の施業方法と代々続く山守制度。木と人への愛情と信頼関係を礎に育まれてきた材のすばらしさは言うまでもありません。近年の需要低下は否めないとはいえ、美しい吉野の材はまだまだ無限の可能性を秘めています。

 

 

吉野林業がすばらしい理由

森に育った人たちは森を糧に生きることを選びました。それが吉野林業の始まりです。それゆえに森への愛情と造詣は深く、そして綿々と受け継がれていきます

 

太閤秀吉がベタ惚れした歴史のすばらしさ

古くは1500年頃に造林したとの説もありますが、本格的な木材利用が始まったのは豊臣秀吉の時代、15731593年の天正年間です。大阪城や伏見城、同時代に造営された城郭・寺社仏閣に吉野の材がふんだんに使われています。透水性と保水性に富んだ土壌、ほど良い降水量と気温、山間部としては少ない積雪量など、木の生育にもっとも適した地域から産出された木材は当時から高い評価を得ていたのです。

 

吉野川を利用した運搬も整備され、大阪市場への木材出荷は隆盛を極めます。林業が地域の基幹産業として定着すると、江戸時代には幕府の直領となり樽丸を生産するようになりました。樽丸とは、味噌樽や酒樽などの材料となる木材、主に杉で作ります。すき間なく水漏れしないことが条件なため、年輪が密で節のない材が好まれました。元々高品質な材を出荷していた吉野林業ですが、条件を満たすために施業方法を工夫します。それこそが今に引き継がれている吉野林業の密植と頻繁な枝打ち・間伐です。丁寧に育てられた木材は均一の木目が美しく香り高く、その吉野杉の樽に入れられ江戸へ運ばれた酒がいっそう豊潤になったといいます。そうして樽丸としての知名度を確立する一方、見事なまでの円筒形の丸太は建築材としても一目置かれるようになりました。

 

 

手間を惜しまない施業のすばらしさ

樽丸で江戸の世に名を馳せた吉野林業が、辿り着いたのが密植多間伐長伐期の施業法です。通常の林業では1ha当たりの植樹は3,000本が目安とされていますが、吉野林業は8,00012,000本を植林します。高密度に植えることで木は太くなりすぎず真直ぐに育つからです。植栽後3年間は年2回、46年までは年1回の下草狩りを行い、つる刈り・除伐を経て、1620年目から間伐が始まります。この間伐の多さが吉野林業の特徴です。成長段階に応じてそれぞれの木の間隔を空けすぎないよう、40年目までは35年に1回、70年頃までは710年に1回、以降は10年に1回行われます。

二世代、ともすれば三世代にわたるほどの時間と、たっぷりの愛情を受けて育った木は、やがて100年を目途に吉野材として出荷されます。子や孫を撫でるように育てる吉野の林業。吉野では育林とはいわず撫育(ぶいく)と呼んでいます。

 

山主と山守の信頼関係のすばらしさ

吉野林業のすばらしさを語るときに密植多間伐と共に挙げられるのが山守制度です。借地林制度から発達した制度で、山林の所有者を山主、手入れする管理者を山守と呼びます。山守は山主から世話代をもらい、地元の人間を雇用して山の手入れをします。そして伐採に関しても報酬を得ます。山主は山守に自分の財産を預けて管理を任し、山守は幾世代にもわたって山を守るわけですから生半可な信頼関係ではありません。吉野の山と木に対する愛情を共有しているからこそできることでしょう。

 

材の素晴らしさ

目を見張るような整った景観で日本三大人工美林に挙げられる吉野の山。美しい山が美しい木で成り立っているのは当然のことです。真直な材は木目がどこまでも一様で節が見当たりません。杉の辺材の白さと心材の赤身のコントラスト、檜のひと肌のような色合いが清潔感と高級感を醸し出します。シロアリの害に強いばかりでなく、インフルエンザの感染抑止、ダニやカビの抑制効果も報告されたといいます。

年輪幅が狭く均一な吉野材は強くたわみにくいのが特徴です。たわみにくさを示すヤング係数は、杉がE90、檜になるとE110となります。いずれも全国の平均値を大きく上回り、外観の美しさと人体への健康効果も併せて、用途拡大への期待が高まりつつあります。

 

課題と展望

かつては高級ブランドとして黙っていても売れた吉野の杉檜ですが、需要低下は紛れもない現実です。代々続いた山守や製材工場もかつてほどの賑わいはありません。生活様式が変わり消費者のニーズも多様になりました。コストで選ぶなら輸入木材、強度で選ぶなら集成材という人も少なくありません。多様なニーズに合わせた完成品、たとえば家具や木工品などの出荷を始めた事業所もあります。吉野の美林を、吉野材のすばらしさをPRする体験会なども頻繁に行われるようになりました。吉野林業の特性である多間伐。その間伐材の用途には、無限の可能性があるはずです。

 

木工製品のすばらしさ(HAND in HANDのすばらしさ)

川上村にはかつて、ろくろ職人の木工所がありました。その技術を受け継ぐ木工作家が現在も住んで作品を作り続けています。木工製品は作家の美意識と技術の高さはもちろん、素材のすばらしさを感じることのできる作品です。日常的に使える食器やぐい飲みなら、使うごとに味わいが増すことでしょう。HAND in HANDでは間伐材を利用した木製品を販売し、その収益の一部を森林保全活動に寄付しています。
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